阿賀沢紅茶 西馬舜人 正反対な君と僕 サニー&レイニー

少年ジャンプ+で大人気連載中の等身大ラブコメが初の小説化。いつものように元気に投稿した鈴木だったが、谷くんの様子がいつもと違う? 山田に好きな本を貸した西さんは感想が気になって……。少し違う日常を3組の視点で書く連作短編集。

私が知っているラブコメといえば、主人公の周りを複数のヒロインがにぎやかに距離感を測る物語で、主人公ピッチャーが圧倒的に強い野球漫画のような印象だ。今は全員野球のような、周囲とのバランスを考えながら恋を進めるのがトレンドなのだろう。原作マンガ「正反対な君と僕」の大ファンで、文章で読むと解像度が上がる。彼ら彼女らはもっとストレートに生きてもいいのにとも思う。

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高野秀行 【カラー版】ミャンマーの柳生一族

探検部の先輩、舩戸与一に誘われた取材旅行先はミャンマーだった。監視役の案内人たちから見えてきたのは、ミャンマーの軍事政権は武家社会? 幕府が送り込んだ柳生一族と南蛮人の死闘が始まる……。

近著が話題になっていたのでハイハイとんでも伝奇と思って読み始めると、舩戸与一との珍道中を書いたルポタージュだった……。街は牧歌的で、裏柳生と呼ばわる面々は人懐っこく、のどかな旅の様子はロードムービーのよう。心地よさの中にミャンマー情勢を挟み、その分析はビリリと辛い。

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吉田千亜 原発事故、ひとりひとりの記憶 3.11から今に続くこと

2011年3月11日、東日本大震災を起点に原発事故が発生。10年少しが経った今でも、福島に残った人、福島から出た人へ、著者は取材を重ねていた。あの瞬間が分岐点となった18人の道のりを伝える。

著者の「孤塁 双葉郡消防士たちの3・11」は、震災・原発事故に関わった120名の消防士に取材した傑作だった。同じコンセプトで福島から出た人、残った人たちへ寄り添う1冊を残す。人を追うのではなく、「共に生きる」著者の思いは、手紙のような優しさが文面から醸し出される。膝をついた人は数多くいても、必ず「無力な存在で終わらない」と決意した人たちがいると、本書は教えてくれる。

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