有栖川有栖 江神二郎の洞察

1988年4月、英都大学に入学したばかりの僕は、推理小説研究会に入部する。ある人とぶつかって落ちた1冊の縁がきっかけだった。アリス最初の事件「瑠璃荘事件」。八坂神社から帰る大晦日を書いた「除夜を歩く」、マリアとの出会いから入部までを書いた「蕩尽に関する一考察」など短編9編を収録。

2012年の発売当初にハードカバーで購入して、ここまで寝かせてしまった。シリーズらしい作品もあれば、有名古典ミステリーのオマージュもあり、物足りないけど寂しさは埋めてくれる1冊。「ハードロック・ラバーズ・オンリー」はビックコミックに掲載される読切のようなエモさ。あっさりしているけど、こういう作品が読みたいとなお切望する「桜川のオフィーリア」が格別。誰もが思うことですが、早く新作長編が読みたい。

 

鵜飼秀徳 仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか

新しい日本のために進められた神仏分離令。神社と寺院を分離する政策は、なぜ宗教攻撃、文化財破壊にエスカレートし、廃仏毀釈となったのか。明治維新から150年。鹿児島、松本、伊勢、東京、奈良、京都など、語られない近代史を追う。

奈良の興福寺五重塔が25円で売却されそうになっただの、仏像で焚き火をしただの聞いたことはあったけど、その全貌を知らなかった廃仏毀釈。というか神仏分離令。スタートが権力の強かった比叡山坂本、それに国学が盛んだった水戸からの民衆運動で、薩摩においては寺院が消滅したというのは衝撃だ。当時の日本のメンタリティが、というよりは、Twitterを見ているような風景で笑ってしまった。けっして他人事でも、過去のことでもないんだな。

仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか (文春新書)

仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか (文春新書)

櫛木理宇 死刑にいたる病

鬱屈した学生生活を送る筧井に届いた手紙は、連続殺人鬼・榛村からだった。そこには「最後の1件は冤罪だ。証明してほしい」と書かれていた。子どものころ、パン屋の店主として可愛がってくれた彼のために調査を進めるうち、筧井は榛村になぜか惹かれていく。監禁・暴力によって支配した最悪の殺人鬼が、山中で泥まみれの女性を殺したのか。本当に彼は居合わせただけなのか……。

コミュニケーション不足の青年が面談、手紙、調査をくり返すサイコホラー成長譚。物語の先の見せかた、残虐なシーンの挟みかたがとても上手く、物語としていくらでも読み進めてしまえる。過去とのコントラストもマル。好みによるけど、最後の着地は欲張りすぎて一歩多かったのでは?

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)