伊坂幸太郎 マヌエーレ・フィオール クリスマスを探偵と

ドイツのある街で、クリスマスの夜。男を尾行していた探偵カールは、男が入った館を見張るために公園のベンチに腰掛けた。偶然出会した先客と会話をするカールだったが、……。

伊坂幸太郎が大学時代に書いたものをリメイクし、絵本仕立てにした1作。なるほど、伊坂幸太郎のテーマともいえる「探偵」「男2人」「親子」「構成とどんでん返し」が揃っている。シンプルなクリスマス・ストーリーだけど、全てが気持ちよく詰まった、見本のような驚きの短編だった。クリスマスを前に読んでよかった。

クリスマスを探偵と

クリスマスを探偵と

阿津川辰海 紅蓮館の殺人

落雷による山火事が発生。山中に隠棲した文豪に会うため、合宿を抜け出した高校生の2人は幸運にも館に救われる。そこに住む少女とも仲良くなった翌朝、釣り天井の部屋で圧死していた。これは事故か殺人か。館全焼までのタイムリミットは35時間。死が迫る極限下で選ぶのは、真相か生存か。

多くの年末ミステリーランキングで話題だったので読んでみた。あらすじは山火事と館をクローズアップしているけど、読み応えとしては2人の探偵が登場すること。1人は嘘を見ぬいてしまう高校生探偵と、その助手役。積み重なった嘘が連鎖的に解かれていく楽しさは、本各ミステリーの醍醐味として十分。もう1人は過去の連続殺人犯を追い詰めたものの、悲劇により引退した元探偵。新人とベテランが対立し、何を真相とするかのぶつかり合いがいい。そこを若々しい作風ととるか、物語が複雑と感じるかは読み手の好み次第だろう。館も因縁も違和感もよく作られた話題作だった。

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

劉慈欣 三体

文化大革命の最中、女性科学者、葉文潔は目の前で物理学者の父を処刑された。息を潜めて暮らしていたが、巨大パラボラアンテナのある軍事基地へスカウトされる。秘密裏に進められていたプロジェクトは、人類の運命を揺さぶるものだった……。それから時が経ち、分子素材を研究する汪淼が呼ばれた会議で、著名な科学者たちが自殺していることを知る。ある学術団体を追ううちにたどり着いたVRゲーム「三体」を体験するが……。

猛烈なプッシュを受けて読むことにした、俺観測今年1番の話題作。世界が滅びるVRゲーム「三体」の攻略も熱いけど、文革 vs. 物理学者で始まる物語にガッツリ心を掴まれてしまった。現代SFなんだけど、この味わいは水滸伝だ! どん底から巨大なものに立ち向かう姿が熱い。3部作ということで、続きも楽しみに待ちます。

三体

三体