殊能将之 キマイラの新しい城

キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)

キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)

最近、ミステリというミステリを読んでなかったのをきっかけに、とりあえず山の中から発見したのですが、もっと奥底で眠っている本を見るのが怖いですよね。そろそろビネガーになるのではなかろうかと。
殊能将之がミステリという舞台の上で、本当に書きたかったことの1/10も僕は分かっていませんが、とりあえず物語りそのものが面白いので安心して読める作家だと思っています。そういった要因を見せながら、ただ読者を満足させる要素を組み込んでいった、今作「キマイラの新しい城」は、ある一定以上の評価を得たからこそ出来た作品といえるでしょう。
ハサミ男」のインパクトに劣るといっているのではなく、密室という殺人に、750年前に殺された幽霊を出す当たりを許されてしまうからこそ、殊能将之という作家が大きく計算していると見えてくるわけです。ガッチガチの本格魂を露骨に見せず、軽く隠している具合も好きです。
ただ、島田荘司「斜め屋敷の犯罪」のような切れ具合を期待させておきながら、かすったように見せかけるのには個人的には残念。あくまでも期待でしかないですけどね。そう思ってしまった自分にかなり驚いたりもしています。結局は、どこまでも合理的な密室を作り上げようとしている人なのかもしれません。その面は今作の密室トリックも含めて好きです。