高木彬光 ミイラ志願

これは面白い! 初彬光でしたが、こんなに巧妙な語り口調で伝奇物(歴史物に極々近い)を書いていたとは。100点満点中、90点以上の花丸ですね。巻末エッセイは二階堂黎人。それと中島河太郎高木彬光の説明があります。あれ? 二階堂大先生は本格しか読まry。
即身仏になることを志した盗賊を書いた表題作『ミイラ志願』。信長の影武者となった僧侶『偽首志願』。歴史の一ページにもなれず、ただ消えていった今川氏真がなりたかったものとは……『乞食志願』。関ヶ原決戦の前日に東西の武将の前に現れた幽霊は何者だったのか『妖怪志願』。何かを志した者たちを書いた『志願』連作短編、全九話を収録。
桶狭間の戦いで破れた今川義元の嫡子である今川氏真。彼は流刑にされたまま歴史の表舞台から姿を消す。そして、京の土地で不思議な蹴鞠使いという姿で浮浪していたが……、という『乞食志願』が素晴らしい! 乞食になりたい、戦とは関係のない暮らしをして、ただ蹴鞠をしたい……。そんな気持ちを書いて、最後に家康の言葉が……、素晴らしい! 他のも凄く面白いんだけど、これは感情が高ぶりましたね。
あとは明治維新後の処刑人を書いた『首斬り志願』も面白い。抜刀するシーンは一つしかないんだけど、それが滅茶苦茶格好良い。「えっ、斬ったの?」と読んでいる側が思うぐらいにアッサリと終わらせる。その瞬間が上手いのなんの。物語も裏があって、最後に奇妙な味が残るし、良く出来ているパターンです。
他にも『飲醤志願』など馬鹿馬鹿しい話や、全身に豪華絢爛な刺青をした一世風靡の女賊を書いた『女賊志願』なども良い! 全部をお薦めしたいぐらい面白い。歴史の表舞台でヤンヤヤンヤした武将などを読むのも面白いけど、こうやって裏舞台で活躍した奇人の話も良いですね。
今は底本になった角川文庫版と、復刊になった講談社大衆文学館コレクションも絶版? 古本で見つけたら買って損なし。絶対面白いです。