ジェフリー・ディーヴァー ウォッチメイカー

拷問後の虐殺死体を残しておきながら、まったく証拠を示さない手腕は、まさに緻密に作られた時計のよう。2つの死体の横にはアンティーク時計が残されていた。やがて犯人は同じ時計を10個購入していたことが判明する……。四肢麻痺の元科学捜査官リンカーン・ライムに最強の犯罪者”ウォッチメイカー”現る。しかし相棒の刑事アメリア・サックスは、とあるある会計士の自殺を追い”ウォッチメイカー”事件に協力できなくなってしまうが、事件は複雑に絡み合い……。習慣文春ミステリー・ベストテン、このミステリーがすごい! 1位受賞。
どことなく有栖川有栖『女王国の城』を思い出したが、ある意味、作者へのあきらめみたいなものがあったのかもしれない。完結が見えてこないシリーズ内の恋愛、外評価からうかがえる既刊への期待損。でも読んでみれば、こんなにも素晴らしい作品があったのかと気づかせてくれる(僕は大変失礼なことを書いている)。
警察官僚との間でもみ合いながら、遅々として進まない捜査。あくまでも先を冷静に歩む犯人”ウォッチメイカー”の描写。尋問の天才である捜査官キャサリン・ダンスによる今までになかった進展。章毎に書かれる小さな時計。あいも変わらず読み始めれば止まらない面白さ。展開がスリリングであり、派手になっていくため、また従来の「どんでん返しの連続」のために見えにくいが、繊細に作り込まれた本格ミステリだ。また社会派要素が、最後は1つの大きなトリックへと絡み合っていく。ここにアメリカン・ミステリの凄まじいポテンシャルを感じさせる。

ウォッチメイカー

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