エリザベス・ムーン くらやみの速さはどれくらい

幼年期に自閉症の治療が可能になった近未来。その治療を受けられずにいた最後の世代、35歳のルウ・アレンデイルは解析の仕事、週一のフェンシング・クラス、日曜礼拝をくり返す毎日を好んでいた。しかし、上司の計略から自閉症治療薬の実験に参加するよう促されてから、ルウたちの感情は揺れていく。人(ノーマル)との差はあるが、それでも友人として接してくれる人々がいる。ノーマルになっても、今よりいい生活になるのだろうか。今の僕は消えないのだろうか。光の先に暗闇があるのなら、きっと暗闇は光のスピードより速いはず……。
2004年ネビュラ賞受賞。日常生活を問題なく過ごす中でノーマルとの差異を問い、またノーマルとの交流で自分が自閉症であると自覚する、ルウの苦しみと幸福を書いた物語だ。その視点は重すぎず、色彩にあふれた美しい描写で視覚的に読ませる。タイトルは作中で何度もくり返され、その疑問をしっかりと検討していく自閉症患者たちの姿は、懸命さがしっかりと現れる。しかしノーマルは「暗闇に速さはない」と問題にしないために、ある意味で残酷な描写ともとれる。繊細な物語のなかにある、ルウたちの選択と結末を、ゆっくりと楽しんでほしい。