ジョン・ハート 川は静かに流れ

僕の思い出の全ては、川の近くで起こった。母の自殺、初恋、覚えのない殺人容疑、そして父の姿。町を飛び出してから5年、悪友のために戻ってきたが待っていたのは、理解しあえない家族、不機嫌な彼女、そして新たな殺人事件。
30間近の主人公とその恋人、人生に終わりが見えてきた初老たちによってつづられる、美しい思い出。そして目の前に迫る、原発開発のための利権争いや、かつての悪友の不思議な失踪。懐かしんでははいられない現状と、しかし思い返さずにはいられない今が淡々に書かれ、物語が進むにつれ複雑に交差していく。アメリカの農村風景らしい光景が美しく続き、その近辺で育ったキャラクタたちの瑞々しさといったら! 対比するような警察や弁護士といった権力者たちもアク強く、最後まで飽きることなく読まされる。素晴らしい。過去が解れていく洋ミスの一つとして、傑作であるといいたい。

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)