トマス・ハリス レッド・ドラゴン

全米を震え上がらせた、満月の夜に実行される一家惨殺事件。次の満月の夜までに犯人を阻止すべく、凶悪犯逮捕に貢献した元FBIのグレアムに声がかかる。犯人と同一化するために事件現場を丹念に捜査するグレアムだが、捜査は行き詰まり、彼は一人の男を訪ねる。彼はかつて天才精神科医と呼ばれ、連続殺人からグレアムに捕まった男、ハンニバル・レクター博士だった……。<決定版>は、トマス・ハリスからの序文がついたのみ。レクター博士初登場! な印象しかなかったが、もっと早くに読むべきだったと感じさせる傑作。犯人に同化するように現場を歩くグレアムの推理方法と心理描写は、実に奇妙で恐ろしい。自らの中に芽生えようとせん怪物を封じ込めながら、何故グレアムは犯人を追うのか、読んでいてわからなくなる。グレアムは正義の中に渦巻く邪悪との葛藤を演じ、作者はそのコントラストとして、犯人の中に一筋の光を書く。ここからとんでもなく素敵な恋愛小説になりつつも、意表を突くプロットを完成させているあたり凄まじい。

レッド・ドラゴン 決定版〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

レッド・ドラゴン 決定版〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

レッド・ドラゴン 決定版〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

レッド・ドラゴン 決定版〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)