ドン・ウィンズロウ 犬の力

メキシコからアメリカに広がる麻薬を撲滅するため、DEA内部からさえ厄介者と呼ばれるアート・ケラー。新しい一大麻薬カルテルを作った男の後継者バレーラ兄弟。街の不良から飛び出し、権力者を翻弄する高級娼婦ノーラ。力も持っていなかったギャングから、心ない殺し屋になるカラン。それぞれの思いが交差し、誰も予想しなかった30年に及ぶ麻薬戦争が生まれようとしていた……。
1975年から30年に渡って書かれる、麻薬戦争の物語。様々な境遇の人々が登場し、その恐れや喜びなどの思いを語っていく。もちろん、お洒落でバカな会話はドン・ウィンズロウと訳者・東江一紀の組み合わせで健在だ。この麻薬を語るシリアスさと、日常をかもし出す柔らかさが相まって、お互いを強調し、物語の大きな波を作り上げる。それは悲しみに溢れているが、だからこそ愛しあうシーンは格別だ。忘れられない傑作。
犬の力 上 (角川文庫) 犬の力 下 (角川文庫)