井上夢人 ラバー・ソウル

おぞましい様相に誰もが目を背け、社会から隠れて生活をする鈴木誠。しかし彼の書く高度なビートルズ評は、多くの専門家を唸らせた。鈴木誠が偶然にも出会ってしまった、若手モデルの美縞絵里。彼女に魅せられ、大胆なストーキングを開始するが……。

梅田駅の紀伊国屋書店でオススメされていたので読んでみた。海外ミステリーなら3分の2で終わらせるネタを、ネチネチネチネチ書くことで鈴木誠の姿が明確に浮かび上がってくる。高いリーダビリティがあっても、結末まで焦らされるように話しが長い。これが井上夢人の良さなんだろうけど。

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北村薫 盤上の敵

妻の友貴子がいる家に、猟銃を持った殺人犯が立て籠った。末永純一は警察が囲んでいるため、帰宅も身動きもできなくなってしまった。偶然にも犯人とコンタクトを取った純一は警察、報道局をも利用した秘密裏の作戦を強行する。

佳多山大地新本格ミステリを識るための100冊令和のためのミステリブックガイド」の紹介をきっかけに読んでみた。犯人を黒のキングに、妻と主人公を白のクイーンとキングに例えて、チェックメイトを目指す。終盤のテクニックで思い出したのは、北村薫から距離をとった理由がこの怖さだったな……。さらっとキャラクターの辛さを告白させるところです。

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山下柚実 年中行事を五感で味わう

正月のお雑煮に始まり、七草粥、節分、雛祭り……。土地の空気と混ざり合いながら続けられてきた年中行事には、つねに無病息災、子どもたちの成長を願った。そこに存在する音、味、匂いなど五感との結びつきを紹介する。

語り口が優しく、軽い歳事記読みものとして大変優秀。神事、仏事、自然への畏怖と憧れ。1000年以上前の人たちが良心から始めた儀式を今日まで続けている不思議。東京に住む伯父が買ってくるべったら漬けが食べたくなった……(と話したら妻が買ってきてくれた。ありがたい)。

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