2024-12-01から1ヶ月間の記事一覧

荒井魏 映画少年・淀川長治

映画の先生として親しまれた淀川長治。89歳で亡くなるまで、映画少年の心を失わなかった。伝記にはドライなものとウェットなものがあると気づく。著者の思いがにじみ出し、主人公の言葉で語るウェットな伝記は、なんとも不思議な気持ちになるものだ。 映画少…

宇津呂鹿太郎 sakiyama 怪談売買所 あなたの怖い体験、百円で買い取ります

尼崎の商店街に開く怪談売買所では、お客さんが持ち込んだ話しを100円で買い取る。竹書房のシリーズを小学生向けにリブートした本作は、怪談だけで終わらずサポートまで充実。サンタを見た子、山での怪異を経験した男性に解説を添える。最初のエピソード、関…

澤村伊智 などらきの首

田舎の洞窟に封印された化け物の首をめぐる表題作。体育館に響く奇妙な音を探っていく「学校は死の匂い」では、第72回推理作家協会賞短編部門で受賞。他「悲鳴」「ファインダーの向こうに」なども、どれもが面白くて怖い短編集。澤村伊智の書く恐怖は、急に…

ジェフリー・ディーヴァー ネヴァー・ゲーム

リンカーン・ライムはもう追いつけず、キャサリン・ダンスは家族描写が濃厚すぎて、クオリティが高い短編集はマストだけど物足りず……。そんな中で登場したコルター・ショウ。失踪誘拐事件を追ううちに、ゲーム『ウィスパリング・マン』にたどり着く。偶然の…

平松裕子 東大ファッション論集中講義

ファッション史における産業革命は、オートクチュールからプレタポルテへの移行にある。明治維新以降、日本の着物マーケットは楽で、小回りが効くプレタポルテになれなかったのか。4日間でファッション史を網羅する熱量。今年もっともボコボコに殴られた本に…

保坂展人 相模原事件とヘイトクライム

2016年7月、夜の障害者福祉施設にて重度の知的障害者が襲撃され、19名が亡くなった。相模原事件から見える、日本社会に蔓延する差別意識を考える。事件そのものを書くのではなく、「波紋」を見つめる1冊になる。加害者の手紙への賛同については、悪魔の理論…

氷室冴子 クララ白書 ぱーと2

中学3年から女子寮クララ舎に入ったしのぶ、菊花、蒔子の3人。入寮試験をクリアし、学園祭の劇も終わってひと段落。美人の蒔子にラブレターが届くと同時に、私にも!? 氷室冴子の見事さは好きの瞬発力にある。好きだと伝える覚悟が、好きだと気づいた姿が素…

中山市朗 怪談狩り まだらの坂

「新耳袋」の著者・中山市朗が蒐集した実話怪談シリーズ第9弾。 「工事現場」から掘り出された白い狐。そっくりな自分が近くに存在する「瓜二つ」。夕方の4時に玄関がガチャリと開く「歩く音」。葬儀会社を舞台にした「スズキユウイチ」が印象に残る。 怪談…

雨穴 変な家2 11の間取り図

1作目に続き図面で読み解くサスペンス。ありふれた家族が住む一軒家から始まり、森のなかの水車小屋、ヤクザが監視するアパート、新興宗教団体の本部へ。小さな狂気の源泉に触れるうち、大河に飲み込まれていく緊張感は恐怖とも快感とも。この手法はもうお腹…

宮部みゆき 他 堕ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー

角川ホラー文庫30周年を記念して刊行されたアンソロジー。全3巻の予定で、ベテランから新人まで読める。ベテランの風格を見せつける宮部みゆきの青春ホラー。新名智はファンタジーRPGに秘められたメッセージを読み解かせる。芦花公園、内藤了、三津田信三も…