増田俊也 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」と言われた歴史上最強の柔道家・木村雅彦。同時に大衆の目前で力道山に敗れた男でもある。貧しい家庭から「鬼の牛島」に見出され、人の限界を超える3倍努力で猛練習を経た結果、天覧試合で圧倒的な強さを披露する。しかし戦争を境に柔道の本流から離れていく……。

ある経営者に本を読むかと問うたところ、本書を紹介されてから数年……。新聞書評欄で紹介されていたのを機会に読んでみた。木村最強伝説を解体しながら柔道史に肉薄する。牛島辰熊力道山大山倍達など歴史上の著名人からのラブコールに満たされながら、「思想なき木村」が時代に流されていく悲しさよ。しかし木村の魂はブラジリアン柔術によって甦る……。この展開はまさにマンガでしょう。ノンフィクションの緊張感とフィクションのような展開に読む手が止まらなかった。