乙一 中田永一 山白朝子 安達寛高 沈みかけの船より、愛をこめて 幻夢コレクション

少し不思議な物語からミステリー、ホラーなどバラエティーにあふれた“ひとり”アンソロジー。ダメな自分に再開していく「地球に磔にされた男」。いつの間にか妊娠していた「東京」。曰くつきのキャンプ場へ撮影に行く「背景の人々」など11編を収録。

離婚する親のどちらに行くかを選択する表題作や、ホームズとワトソンを人面瘡と演じる「二つの顔と表面 Two faces and a surface」は、乙一らしいミステリー。シンプルな組み立てだが苦味のある結末がやはり上手い。違う作風を交互に収録しているので、甘い辛いでお菓子を食べるような、不思議な満足感がある。中でも秀逸なのは、フリーターが「時間跳躍機構」で別世界の自分に会う「地球に磔にされた男」。会いたい誰かのためではなく、待ってくれている誰かのための物語だった。僕が乙一ベストアンソロジーを組むなら絶対入れる。