小川哲 地図と拳

日露戦争前夜、満州にある桃源郷を聞きつけた男たちは、不毛の大地にたどり着いた。ロシアから派遣された神父クラスニコフ。政府に家族を奪われた孫悟空。遥々日本から密偵と共に引き寄せられた細川。地図にない島を探す須野。半世紀に渡る地図と拳による戦いが始まる。

生涯傑作短編アンソロジーを作るなら必ず収録する「魔術師」に出会い、カンボジアを舞台にした長編「ゲームの王国」を炎天下の中で読み、ハードカバーで600ページを超える本書までたどり着いた。満州という苦手なジャンルだけど、数ページ読み進めれば、そんな心配も杞憂だった。ひと時だけ配置されるキャラまで物語を引き立てるので、終盤はかなり複雑になってくるがじっくり読んでほしい。疲れ知らずの没入感に支配されるのは、大河に流されまいと遡上した人々への讃歌だからか。大作を読んだ満足感と、細部へのボリュームを望んでしまう渇望感が、しばらく経った今でもまだ終えない。