鈴木捧 現代奇譚集 エニグマをひらいて

現代怪談の著者が聴き集めた奇妙な体験談。全5章41話を収録。出版が叶わなかったものの、著者による自費電子出版として作成された。

Twitter(現X)にて紹介されていたので読んでみた。平日の友人宅にいた男性は父親ではなかった? 1人旅で部屋に戻ると、窓際に夕日を見つめる女性がいた……。廃墟での撮影から奇妙な連鎖が続く。著者の方針でエピソード毎のタイトルがないため紹介しにくいが、手触りが指先に残るような作品群だった。

note内告知記事にて試し読み4話が公開中。違う夫婦と遊園地から帰る「誘拐」を読んでもらいたい。

黒崎緑 未熟の獣

公園で幼女の死体が発見された。握りしめられた「1+1=」はダイイングメッセージなのか。さらに幼女誘拐は続き、新たな犠牲者は手首が切り落とされていた。特殊な苗字を狙った事件か、それとも……。

佳多山大地新本格ミステリを識るための100冊」をきっかけに読んでみた。公園を舞台に誘拐事件を軸にして、母であること、母でないことが狂気に導いていく。「1+1=」を筆頭に多くの驚きが待っているが、同時に構成要素が多すぎる印象。

S・A・コスビー 頬に哀しみを刻め

殺人罪の服役から出所後、庭師として小さな会社を経営する黒人のアイク。彼の息子が白人のパートナーとともに惨殺された。パートナーの父、酒浸りのバディ・リーをバディに、息子の生きかたを認められなかった男たちによる犯人探しと復讐が始まった。

ハードボイルド寄りの静かなスタートかと思えば、着火点が低すぎる暴力的なオフビート小説に早替わり。殴っているか血を流しているか、脅しているか吐いているか、いずれかのシーンが続く。ゲイかどうか、黒人か白人かどうかを問う鏡合わせの物語だった。だけど根本は、違うものが認められない薄っぺらな男のプライドなのではないか。静かで冷たい孤独感が、読後も肌に張りつくようだ。

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