乙一 大樹館の幻想

巨樹を取り込みながら三重に巻いた「大樹館」。孤独な天才作家が「密室」で殺され、家政婦の胎児が「未来」から推理を語りかける。乙一が一度書きたかったであろう綾辻行人への完全オマージュを完成させ、読者とともに心を満たす1作だ。これは面白い面白くないの問題ではない。宣伝文「あなたはこの一冊で読撃する。」は、浦賀和宏の「妄想は脳外へ」に通ずるものがあった。

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岡真理 小山哲 藤原辰史 中学生から知りたいパレスチナのこと

アラブ・ポーランド・ドイツの専門家が考えるパレスチナ問題。複雑な歴史的大河をそれぞれの知識と理解から紐解く。第二次世界大戦後、ドイツ経由の武器ルートが存在した理由。イスラエルが食料高自給率を維持する理由。それら全ての起点はヨーロッパにあり、対岸の火事としていると呼びかける。そう心で処しているのは読者自身も同じでないかと、心のなかに響く。

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氷室冴子 クララ白書

中学3年から女子寮クララ舎に入ったしのぶ、菊花、蒔子の3人。さっそく課せられた入寮式は、45人分のドーナツをこっそり揚げること! しのぶに突っかかる下級生の夢見の存在を忘れていた。終盤、正直な思いを伝える夢見が眩しい。「ざ・ちぇんじ! 新釈とりかえばや物語」収録のクララ白書短編を読みたくて再読。20年ぶりかも。氷室冴子を教えてもらった日々を思い出す。