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千早茜 しろがねの葉

戦国末期の石見銀山を舞台に、山師に拾われた少女ウメの生き様を描く。お腹いっぱいで読み終えたあと、北方謙三の後書きで激しく痺れる。格好いい。人の力がいかに小さく、自然と運命の巨大さに、読者まで飲まれていくようだった。 しろがねの葉(新潮文庫)…

岸政彦 断片的なものの社会学

読んでほしいと紹介されたページが、フェルディナント・フォン・シーラッハの短編に似ていて思わず絶頂。1人の人生をなぞりながら、本人にしかわかりえない行動を記録する。ここ数年、シーラッハの新刊では満たされない、乾ききっていた肌が急速に潤されて、…

荒木飛呂彦 荒木飛呂彦の漫画術

『ジョジョの奇妙な冒険』の作者、荒木飛呂彦が創作術を明かす。主人公を軸に物語が常に昇り続けること。全てのコマ・セリフが導線になっていることを、丁寧に説明する。この手法を理解してからジョジョランズを読むと、新鮮さが増して読み応えが増す。荒木…

原浩 火喰鳥を、喰う

2026年はホラー小説からスタート。戦地で死んだ大伯父の日記が届いたことから怪異が頻発するアイテム系ホラー。わかりやすいスタートダッシュから怪異とのコンゲームに転じ、終盤にかけて絶望感が増していく。人形とか日記とかのガジェット系より、家系が好…

25年度読んでよかった本

2006年から続いている「今年読んでよかった本」。とにかく大変な1年でした。一人ひとりに助けてもらいながら、年末と新年を迎えられました。25年に記録した読書は77冊。80冊は超えておきたかった。 24年読んでよかった本でも紹介した、角川ホラー文庫30周年…

乙一 荒木飛呂彦 野良犬イギー

マンハッタン島に潜む一匹の野良犬を捕獲するために、エジプトからモハメド・アヴドゥルがやってきた……。3部開始前、イギーとの出会いを書いた中編と、マンハッタンを舞台にした「ボストンテリアと下水道のワニ」を収録。主人公の巨大ワニvs.イギー戦がペッ…

梓崎優 狼少年ABC

『叫びと祈り』以来の短編集でまさに待望の1冊。映画好きの少年の不審死を書いた「重力と飛翔」は、雪に残された足跡もの。青春×トリックのかけ合わせがレベル高くまとまり、忘れられない1作になった。評価を聞いていた「スプリング・ハズ・カム」、言葉を放…

フリーダ・マクファデン ハウスメイド

仮釈放からギリギリの車中生活をしているミリーがたどり着いたハウスメイドの仕事。でもこの一家、なにかがおかしい⁉︎ 1部・2部で物語が大きく変わるケースで、奇妙な家庭環境はサスペンスフルに、刑務所に戻りたくない主人公の必死さが可笑しい。一気に読め…

上村裕香 救われてんじゃねえよ

難病の母を介護しながら学校に通うも、飲んだくれの父は助けてくれず、皆んなとの時間に差が開いていく17歳の沙智。闇属性の「成瀬は天下を取りにいく」を読んでいるようで、誰一人応援できない。共感もできない。登場人物の多くは夢を見れない。未来を想像…

フェルディナント・フォン・シーラッハ 午後

感想を書こうと思っても、まったく記憶になかった。なにを読んでいたんだ。読み返すと露出狂に戸惑う夫婦や、時計屋のエピソード、1つひとつが重すぎる。私はシーラッハの「犯罪」「罪悪」を求め続けていると気づく。「カールの降誕祭」が絶版だったので古書…

尾崎俊介 ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ

世界114か国、28言語以上で読まれる恋愛小説レーベル「ハーレクイン・ロマンス」。金太郎飴のイメージは間違っていなかったが、その切り口が見せる表情は時代によって変化してきたと知る。出版事情や、官能描写の選択の分析が面白い。中国は古風な描写を好み…

吉田修一 国宝

ヤクザの子から芸の世界に入った男と、役者の子として生まれた男の歌舞伎物語。映画を見ずに原作を読む。芸能界の光と影を、主人公の2人に重ね合わせる。成功と挫折を鏡合わせにして物語が進むのでとにかく面白い。語り口は見守るようでもあり、時には冷酷に…

藏本龍介 仏教を「経営」する 実験寺院のフィールドワーク

ブッダの教えから2500年。実践・解釈が変わってきた今、新たな世界を創造する人たちがいる。ミャンマーで律を厳守するタータナ・ウンサウン寺院、「善行」を求めて集うダバワ瞑想センター。そして日本・京都の実験寺院・寳幢寺に参加し、仏教徒たちの経営を…

櫻田智也 失われた貌

山中で身元不明の死体が見つかった。顔を潰され、歯を抜かれ、手首から切り落とされていた。報道を見た小学生が「10年前に失踪した父ではないか」と訪ねてきたが……。節々に男性・女性それぞれの強さを感じる刑事ドラマ・家族模様を複雑にからみ合わせながら…

たろちん 毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話

内容はタイトルまま。ゲーム実況に至るまでと、膵臓の一部が壊死してから退院するまでを記録する。抱腹絶倒。リアルタイムではこんなことなかったろうに、面白く文章化できる力に頭が下がる。体質もあるけど、アルコール、ドラッグ、タバコ、いずれにせよ適…

アンソニー・ホロヴィッツ 死はすぐそばに

ホーソーンとホロヴィッツのコンビ・シリーズ5作目。閉ざされた高級集合住宅地内で、皆から敵視されていた男が殺された。穏やかに暮らしていた住民たちにはそれぞれ動機があった……。ロンドン中心部の擬似村を舞台に、古きよき英国ミステリーを現代に蘇らせる…

大島清昭 最恐の幽霊屋敷

死人が出る幽霊屋敷、事故物件として貸し出される家がある。相次ぐ不審死の調査を受けた探偵は想像を絶する怪異と出会う……。対策のために霊能力者を呼び、呪物が残れば吸収して強くなる。興味本位の素人には本気で怒る。スーパーサイヤ人みたいな家だ。勢い…

北山猛邦 神の光

北山猛邦の密室・連作短編集が好評なら、と読んでみた。裏カジノがある街が消える表題作「神の光」。瞬時にして鳥居が消える「藤色の鶴」など、驚きの消失劇を5編収録。正直、好き嫌いでいえば嫌いに近い。でも、物理トリックは表題作をもって一歩先へ進化し…

佐藤成祥 イカの恋、タコの愛

似ているようで似ていないイカとタコ。その生殖を真面目に解説した1冊が、新聞書評欄に取り上げられていたので読んでみた。同じイカでも、同じタコでもこうも違うのか。スズメでもパンダでも、 1つの生物をテーマにした岩波科学ライブラリーにハズレはない。…

M・W・クレイヴン デスチェアの殺人

重大犯罪分析課の捜査員ポーと、天才分析官ブラッドショーのコンビが冴えるシリーズ第6弾。カルト教団の指導者の死体には、ブラッドショーにも解けない暗号が刻まれていた……。閉ざされた宗教団体の調査に困難を極めながら、リーダビリティー高い筋書きは変わ…

夢枕獏 東天の獅子 第四巻 天の巻・嘉納流柔術

部位必殺を目的とした琉球武術「唐手」。秘伝「御内式」との戦いが始まる。驚異的な面白さもあっという間に最終巻へ。戦い、戦い、戦い続けてたどり着いた境地。「地の巻」なく完結となったのは残念だけど、マンガ以上に面白い小説を読ませてくれたことにた…

那須正幹 前川かずお あやうしズッコケ探検隊

ハチベエ・ハカセ・モーちゃんの3人組による痛快劇第4弾。ハチベエの親戚宅から無人島キャンプに行くはずが、ボートが漂流して本当の無人島へ。数日生きるだけでもたくましい。ほんのりと社会性を匂わせ、強引な展開にハラハラドキドキ。そして笑いと、ホロ…

夢枕獏 東天の獅子 第三巻 天の巻・嘉納流柔術

「警視庁武術試合」を舞台に、新興勢力対古流の争いが始まる。そして闇討ちを仕掛ける「梟」が登場。マンガ以上にマンガらしく、文字の迫力に圧倒される。著者自身「こんなに面白い話しを書けて幸せ」と書くが、読めた私こそ幸せだと感謝を伝えたい。 東天の…

夢枕獏 東天の獅子 第二巻 天の巻・嘉納流柔術

柔術王国の九州。新興講道館を含む関東勢。北の秘伝「御式内」。畳の上の戦いも面白いが、道中での野良試合が面白すぎる。夢枕獏には長編格闘小説ではなく、単発エピソードを集めた格闘超短編集をお願いしたい。 東天の獅子 第二巻 天の巻・嘉納流柔術 東天…

夢枕獏 東天の獅子 第一巻 天の巻・嘉納流柔術

柔術から柔道へ。講道館を立ち上げた文武両道の嘉納治五郎の元へ、情熱をもった若手が集まってきた。柔道誕生物語が始まる。と思いきや、序章の主人公はブラジルにたどり着いた木村雅彦で、オードブルから豪華すぎる。続いてのスープは、圧倒的なセンスを見…

キム・ミンジュ 北朝鮮に出勤します 開城工業団地で働いた一年間

軍事境界線を越えて北朝鮮に出勤。平日は北の職員と働き、週末は韓国へ帰る。開城(ケソン)工業団地で働き、閉鎖されるまでの1年間の記録。家庭的な韓国料理が恋しくなる。美味しいキムチが食べたい……。読書という行為は「いろんな人がいて、それぞれにそうで…

那須正幹 前川かずお ズッコケ(秘)大作戦

ハチベエ・ハカセ・モーちゃんの3人組による痛快劇第3弾。スキー場で出会った美人が転校してきた! でも彼女は追われていた……? モーちゃんの恋心を巡り、子どもと大人の境目を渡り歩く3人組。戸惑いながらも成長する彼らを応援せずにはいられなかった。 ズ…

宮澤伊織 ウは宇宙ヤバイのウ! 新版

高校生・久遠空々梨(くどう・くくり)の下校途中、巨大隕石が直撃して全人類は一瞬にして滅亡した! でも目覚めると三日前。従姉妹の非数値无香(ひすうち・ぬるか)の説明では、星間諜報組織〈偵察局〉のエージェント? 迫り来る隕石! 命を狙う異星人暗殺…

岩波ジュニア新書編集部 生きるためのブックガイド 未来をつくる64冊

岩波ジュニア新書刊行1000点目。社会学者・冒険家・研究者など、世に問いかける人たちが送るブックガイド。問いかけるとはエネルギーのいる活動で、人はエネルギーを得るために本を読むのではないだろうか。 生きるためのブックガイド 未来をつくる64冊 (…

笹沢佐保 結婚って何さ 有栖川有栖選 必読! Selection 8

時代と組織に翻弄される女性2人という切り口で、「ババヤガの夜」評と一緒に紹介されていたので読んでみた。衝動的に退職を決めた二人の女性が、バーで知り合った男と宿に入ったまではいいけど、翌朝には密室下で絞殺されていた……。そこから衝撃の展開を交え…