2024-01-01から1年間の記事一覧
陰謀論アカウントを崇拝する人々を書いた表題作など、信仰心で紡ぐ短編集。小川哲の面白さは、熱狂から抜け出せない空気感にある。共犯性から逃げられない。カリスマに引き込まれる。(搾取される)仕事への(ダメな)使命感に溢れる「密林の殯」は焦燥感、…
6つの連作怪談を収録。とある怪談経験者を複数話で紡ぐ、花柄のスカートを履いた女が現れる「シンパシー」、一族の宿命に巻き込まれる「剔抉」。中でも、1枚の写真が発端となる「隠」が飛び抜けて怖い。2人の友情が壊れていく緊張感は、怪談・モキュメンタリ…
巨樹を取り込みながら三重に巻いた「大樹館」。孤独な天才作家が「密室」で殺され、家政婦の胎児が「未来」から推理を語りかける。乙一が一度書きたかったであろう綾辻行人への完全オマージュを完成させ、読者とともに心を満たす1作だ。これは面白い面白くな…
アラブ・ポーランド・ドイツの専門家が考えるパレスチナ問題。複雑な歴史的大河をそれぞれの知識と理解から紐解く。第二次世界大戦後、ドイツ経由の武器ルートが存在した理由。イスラエルが食料高自給率を維持する理由。それら全ての起点はヨーロッパにあり…
中学3年から女子寮クララ舎に入ったしのぶ、菊花、蒔子の3人。さっそく課せられた入寮式は、45人分のドーナツをこっそり揚げること! しのぶに突っかかる下級生の夢見の存在を忘れていた。終盤、正直な思いを伝える夢見が眩しい。「ざ・ちぇんじ! 新釈とり…
「ぼぎわんが、来る」に続く比嘉姉妹シリーズ第2弾。オカルト雑誌で働く青年が受け取った、とある原稿を起点に死が連鎖していく……。迫りくる正体不明の何かと戦うバトルは前作と変わらず。「リング」式をベースにバトルまで持っていくモチベーションは尊敬す…
Youtubeの映画予告を見て、心地よくボコボコにされる小説だったなと思い返して再読。“ぼぎわん”を呼んでしまう男が家族を守るため、霊媒師・比嘉真琴とフリーライターに救いを求める。初読は比嘉姉妹のキテレツさが理解できなかったけど、映像化のおかげで怖…
平家物語は理解できたけど、太平記がまったくわからなかったので読んでみた。鎌倉時代から室町時代へ、覇権を取ろうとした後醍醐天皇、足利尊氏、楠木正成たちが裏切り、裏切られる。読み終えたときには、結局勢力図がよくわかっていなかった。「太平記を理…
ファン待望、刑事ワシントン・ポーのシリーズ5作目。生放送のトーク番組に出演中、差別的な発言をくり返すジャーナリストが突然倒れて死亡。続いて過激派Youtuberがポーたちの監視をくぐり抜けて毒殺。同時刻に過去に何度も助けてくれた病理学者ドイルが、父…
東京での生活は心を満たしてくれるけど、なにかが満たされない。常にもの足りない男女の22のTwitter(現X)文学。自分の足元を見ろよ! その手に持っているものはなんだ!? 口に含んでいるものを飲みこんでから言え! という感想は、源氏物語への思いと同じ…
心霊スポット突撃系YouTuberチャンイケこと、池田の『オカルトヤンキーch』のファンブック企画のために、廃小屋・病院・ラブホの実話怪談を再調査する……。これでは足りないので都市伝説・怪談の巨頭ネタで串刺しにしたがために、普通のエンタメ・ホラーにな…
角川ホラー文庫30周年を記念して刊行されたアンソロジー。全3巻の予定で、ベテランから新人まで読めるので楽しみ。鈴木光司は四半世紀経っても「リング」を書くのかと思わせてからの、セルフドキュメンタリー・ホラーを開拓。紹介すべき1編は一穂ミチ「にえ…
女三の宮の登場によって六条院のバランスが崩れ始める……。「若菜上」の後半から「若菜下」「柏木」「横笛」「鈴虫」「御法」「幻」「雲隠」を収録。紫の上が病に伏せ、出家への希望と、その思いを拒否する君とで暗くはある。ただ、明石の姫君の子(君の孫)…
先生が発見したのは、校庭に書かれた奇妙な模様。もしかしてUFOのミステリーサークル? 誰が? どうして? どうやって? 事件解決に動きだしたのは、4年1組の辻堂天馬・柚木陸・神山美鈴、通称「ミステリトリオ」。全ての条件がそろったとき「ぼくは読者に挑…
明石の君と出会った光源氏が京都にカムバック。政治的な立場も、女性たちとの生活も整いつつあった。が……。1000年前に鏡合わせ構造の物語を書いているから面白い。息子の夕霧がとにかく真面目で、不器用ながら雲居雁へアプローチしていく頑張りが可愛い。娘…
先生が発見したのは、プールで泳ぐ大量の金魚。誰が? どうして? どうやって? 事件解決に動きだしたのは、4年1組の辻堂天馬・柚木陸・神山美鈴、通称「ミステリトリオ」。全ての条件がそろったとき「ぼくは読者に挑戦する」。 スタートは魅力的な謎から始…
容姿、才能、明晰さに溢れた君。帝の寵愛を受けた母、桐壺の身分は低く、早い死別を迎える。新しい妃の藤壺に惹かれる君だったが、その渇望は山里で垣間見た少女へと向けられていく。のちに生涯をともにする紫の上との出会いだった。 サブエピソードを含む超…
いくつかの解説でジェフリー・ディーヴァーばりの展開と評されていたけど、いやそれジェフリー・ディーヴァー読めばよくない……? 東京各地に散りばめられた爆弾。取調室にいるダルマのような男が呟いたのは、隠し場所のヒントだった……。個性的な悪には、圧倒…
エジプト・ユーフラテスを中心とした古代オリエント地域。ここで生まれた様々な技術や嗜好品は、私たちの日常まで繋がっている。高校の授業で「パンはエジプトで生まれた」と話したら、先生に「ヨーロッパだろ」と否定されたのを思い出した。パンもワインも…
雑誌「江戸楽」にて、時代小説や歴史ものを紹介する書評欄がある。本書は様々な伏線が一つに回収される! とあったので読んでみた。深川佐賀町に住む八五郎は冴えない日々を送っているが、ある夜、噂の幽霊剣士「鳴かせの一柳斎」に出くわす。もしかすると一…
夏休みに死んだ山田が、教室のスピーカーに転生した! 声だけが残された山田と、2年E組の面々の試行錯誤が始まる……。男子高校生らしいバカさ加減と、自由さが実に青春小説。事故死の真相は少しだけミステリー。山田のために挑戦したりいたずらしたり、力の抜…
応募作と怪談作家5名による145話。祖父との思い出を書いたCOCO「影」、インドネシア人女性によるムーンハイツ「小包」がほどほどに怖い。観光地で若き母に出会う、緒音百「気ままな母」が忘れられない1話。 投稿 瞬殺怪談 怨速 (竹書房怪談文庫) 作者:黒木あ…
今、実力を発揮している現代短編ミステリーの書き手・芦沢央×将棋。自分だけの力で勝たなければならないプレッシャーと、勝利だけから得られる恍惚。被災地へのボランティアで、力量ありそうな少女が奇妙な手を指す「弱い者」がベスト。震災だからこその驚き…
何年ぶりの再読だろう。殺人のうえ失踪した夫と、残された母子の揺れを書いた「虚空の黙祷者」がシンプルな現代サスペンスとして上質だった。初読から約25年、ずっと好きな「何をするためにきたのか」と「キシマ先生の静かな生活」。夫婦生活がわかるように…
ホラーを「楽しむ」ため、ホラーカンパニー・株式会社闇が名手を集めた最恐アンソロジー。恐怖を5W1Hでわけ、それぞれの作品に丁寧な解説を収録する。スタートは小学校を舞台にした澤村伊智『みてるよ』。感染していくような怖さを書かせれば流石。中高生向…
第74回日本推理作家協会賞を受賞した「#拡散希望」を収録。離島唯一の子ども4人がYoutuberを目指すストーリーが、島の閉鎖な様子と「今」のギャップを上手く切り取っている。一編それぞれが社会風刺になりすぎず、サスペンス性が高い。家庭教師派遣のために…
「女の友情」を書いたミステリ短篇集全5篇。漫画家を夢見る女子高生2人の距離感を緊張感高く読ませる『願わない少女』は、もう1つの「ルックバック」と呼ぶにふさわしい。違和感のある友情を読まされる気持ち悪さといったら。大矢博子の解説が素晴らしく、百…
池上彰が解説する世界情勢総まとめ。新聞を読むための副読本として大変優秀な1冊で、キーワードと情勢が復習できる。巻が増えるごとに面白みが薄れていく気がしていたが、本書は不思議と充実感があった。 知らないと恥をかく世界の大問題15 21世紀も「戦争…
刑事ワシントン・ポーと助手ティリーのコンビが人気の著者による、スパイ・アクション・シリーズが開幕。主人公は頭部の怪我によって恐怖を感じなくなった男、ベン。元連邦保安官として、かつての上司から行方不明の娘の捜索依頼を受けて捜査にのり出す。世…
書店経営が難しいと本格的に言われるようになったのは、Kindle Paperwhiteが登場してからではないでしょうか。肌感ですが。とはいえ、人件費やテナントの高騰による危機感はあったものの、経営判断までは至らなかったようだ。サービスの悪化による攻略は論外…