王谷晶 君の六月は凍る

田舎町の閉鎖感を書いた表題作と、貧困アルバイト警備員であるオタク女の生活を半私小説的に書いた「ベイビー、イッツ・お東京さま」を収録。

表題作は私の感性ではまったく理解できなかった。半私小説「ベイビー、イッツ・お東京さま」は、傑作「ババヤガの夜」のような、爆走する車に乗ったような怖さと興奮がある。自分自身を含めた人への敵意と歪な愛によって書きった中編だ。不器用な生きかたへの共感とは思いたくないが、痛々しさが滲む文体に心が震える。

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氷室冴子 峯村良子 少女小説家は死なない!

北海道から東京にやってきた大学生、朝倉米子の下宿に売れない小説家(志望)火村彩子先生が転がりこんできた。この世界で生きていくためには、同じ掲載誌を狙うライバル作家を蹴落とすしかない!

ファンタジーやキラキラした学園もの、耽美小説など、それぞれのジャンルを得意とする作家たちがくり広げる掲載バトルロワイヤル。ただただ純粋な敵意は山田風太郎忍法帖を彷彿とさせる。権力者である編集者を圧倒的弱者として書きながら、一般読者を被害者に設定し物語の軸にする。美味しんぼの栗田さんのようなポジションが笑いを生むのか。続編「少女小説家を殺せ!」が感情のコンゲームで最高。

室橋裕和 カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」

バターチキンカレーに甘めのナン。オレンジのドレッシングがかかったサラダとラッシーがセットの安価なランチ。各所で見かけるインドカレー店の多くはネパール人によって経営されているが、インネパと呼ばれるほどカレー移民が増えた背景を追う。

近所にネパール人経営のカレー屋ができて、ピリヤニが実に美味しい。タンドリー窯で就労ビザが複数出るのかと思っていたら、本書であっさりと否定されていた。隣国インドへの出稼ぎから日本に繋がった背景をヒアリングし、斡旋業者のいるネパールまで行くルポタージュ。海外にある日本食風レストランで働く日本人も同じ構図ではないだろうか……。草分けとなったカレー店を紹介していて、日本に本格的な高級インドカレーを持ち込んだ六本木のモティに行ってみた。トマトの酸味とスパイス、塩味が絶妙で、こんな味があるのかと感動した。

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