前野ウルド浩太郎 バッタを倒しにアフリカへ

現地で使用するフランス語もわからず、空港ではセキュリティーにビールを取り上げられ、バッタ研究者はアフリカ大国の一国モーリタニアにたどり着いた。数年に一度大発生するサバクトビバッタのフィールドワークのため、運転手に給料を払い、キャンプ地でヤギを食べ、撮影中にサソリに刺されながら研究を進める。純粋な好奇心と生きていくための冒険ノンフィクション。

ニュースでサバクトビバッタのことを放映していたので読んでみた。珍道中を面白おかしく書いたエッセイ風で、爽快なブログを読んでいるようだった。裸でアフリカの大地に立つような大胆な印象だが、日本で研究者として生きていく難しさが要所から滲みでてくる。社会性、異国情報、生命、足るを知る哲学など、複合的な面白さは2018年新書大賞を受賞したのも納得。

病気もそうだけど、ヒトはいつまでバッタと戦うんだ。

小野不由美 ゴーストハント2 人形の檻

手元にあったものが消える。部屋に響く小さな物音。ささいな超常現象が起こる洋館を調査するために訪れた渋谷サイキックリサーチの一行。しかし嘲笑うかのように現象は過激さを増す。真相を探る中、一人娘である礼美の持つドールに注目するが……。

残穢」怖え。小野不由美えげつねえ……。と思っていたけど、根幹はこの作品ですでに書いていたのか。とにかく僕が人形が苦手なのと、「残穢」の恐怖をいまだに引っ張っていることで、寝しなに読み進められなかったほど極悪な読み心地だった。シリーズを読み通せるか不安になってきた。

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫)

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫)

金森修 病魔という悪の物語 チフスのメアリー

チフス菌の健康保菌者として世界で初めて臨床報告された女性メアリー。優秀な家政婦として働いていたが、被害者の近くには彼女がいた。センセーショナルに取り上げられた彼女だったが、実は他にも健康保菌者は報告されていた。なぜ彼女はメディアに取り上げられたのか。その背景を追う。

荒木飛呂彦のマンガで都市伝説だと思っていた。本当にいたんだ。他にも健康保菌者がいたんだ……。刺激的な話題ばかりが細切れに入ってくるが、優秀な家政婦だったこと、交流の厚い家族がいたなど、メアリーの表情が見えてくるような本だった。アイルランド系移民だったことが病気への恐怖を煽る一因だったなど、今日の私たちと変わらないことに気づく。次の世代が少しでも賢くなってくれるように、自分が先導者にならないように、歴史を勉強しておきたい。