稲見一良 ダック・コール

もしかしたら最後に巨大なカタストロフが待ち構えているのかもしれない……、と構えて読む僕を徹底的に崩してくれる文章は、凄く優しい。鳥にまつわるオムニバス形式とでもいうのでしょうか。夢物語のような童話から、一人の日系人がアメリカの田舎で脱獄犯を追う話まで、様々なスタイルを書ける作家ですね。
人と人の繋がりを書いた話なんだけど、そこには確かに”ある鳥”が存在する。下手をすれば、全ての物語において鳥の神話化になってしまうんだけど、それぞれの微妙な距離感の変化が読んでいる側を確実に飽きさせない。
誰が読んでも、必ず1つは好きになれる物語が挿入されていると思います。個人的に一番好きなのは、カメラマンを書いた「望遠」ですね。何を言われても撮りたいものを撮る、というスタイルを断念してしまった僕にとっては痛いんだけど、やっぱり何かに没頭したときのことを書かれると弱い。

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)