2008-01-27から1日間の記事一覧

中上健次 枯木灘

読書会で中上健次『枯木灘』を読む。和歌山を舞台に、ストイックに土建屋として働く秋幸の血脈と暴力を書いた”紀州サーガ”。風の気持ちよさ、太陽の痛さ、川の冷たさ……。筋立てはシンプルなものの、風土を感じさせる文章が土建屋だけあって濃厚。タイミング…

サイモン・シン フェルマーの最終定理

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』は、数学者からアマチュア・パズラーまでを魅了した表題が証明されるまでを追ったドキュメンタリ。そして、エンタテイメントあふれる歴史小説でもあり、常にクライマックスにさしかかるサスペンスともいえる大傑作。…

鏡明 不確定世界の探偵物語

また珍しいものを読んだ気になる鏡明『不確定世界の探偵物語』。読書中のSF的気持ちよさはあとがき・解説でやっとわかった。大富豪が所有するタイムマシンによって小さな変化が訪れる世界のハードボイルド。私立探偵ノーマンへ依頼される事件が独特になって…

伊藤計劃 虐殺器官

9.11以降、核爆弾によってサラエボが消失した世界を書いた伊藤計劃『虐殺器官』。内戦や民族紛争が増加する中、その背後に見え隠れするジョン・ポール。語り手は米情報軍・特殊部隊所属のクラヴィス・シェパード。彼の視線から語られる母の、そして児童兵た…

北山猛邦 少年検閲官

北山猛邦『少年検閲官』がファンタジーと思いきや、「孤島ものなのに”孤島”である意味が見出せない」ような、そんな甘いものじゃなかった。書物が禁止された世界、日本の小さな町にやってきた英国少年クリスは、町で噂される”探偵”の存在を知る。家々に印さ…

ロバート・J・ソウヤー イリーガル・エイリアン

この面白さたまんねー! と一気に読めるロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』。エイリアンのファースト・コンタクトから、滞在先で起きた殺人事件をめぐる法廷ものに早代わりするのは説明するまでもなく、噂どおりSF・ミステリの傑作。どうトリ…

浦賀和宏 堕ちた天使と金色の悪魔

浦賀和宏『堕ちた天使と金色の悪魔』が駄目デス・ノートになっていた。不死身になったとはいえ、いじめられていた頃のノートを読み返し、復讐した奴らの顔を思い浮かべる八木剛士。暗い……。前半5冊のタイトルは八木を中心としたものであり、後半は世界から見…

森博嗣 キラレ×キラレ

クイーン『九尾の猫』のゼイ肉を削いだら森博嗣『キラレ×キラレ』になったんじゃないかな。満員電車で背中を切られる事件が続き、警察は気がつかなかった共通点が被害者にはあった……。"レトロ"なものを書くというわけで、前作は地下室に幽閉されていた兄など…

須賀しのぶ 帝国の娘 ― 流血女神伝

秋に終わるとなれば再読するしかないと須賀しのぶ『帝国の娘』。長大ファンタジーなので、どこまで伏線が回収されて、何が残っているのか気にはなっていたが……すべてはここに帰ってくるんだ! と須賀しのぶの設計図に感動した。家族は本当にわたしを売ってし…

マークース・ズーサック 本泥棒

『アンネの日記』+『スローターハウス5』と評されたマークース・ズーサック『本泥棒』が、いやいや素晴らしかったですよ。ナチスが力を伸ばしていくドイツ下で、死神が語る少女リーゼルの青春。本を盗むことによって勇気を得て、人に出会い、成長し、別れて…