柳田由紀子 宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧

スティーブ・ジョブズが「生涯の師」と呼び、敬愛した日本人がいた。永平寺からアメリカの布教を目指してやってきた、若き僧侶・乙川弘文。ある人は優れた禅僧と呼び、ある人は酒浸りの女たらしだったと言う。様々な関係者を通して浮かび上げる、弘文の姿とは。

ある人には素晴らしき宗教家。ある人には最低の男。ヒッピー文化が蔓延していたアメリカで、突如現れたプロフェッショナルたちの衝撃が、一人の男を神格化していく。これはグラップラー刃牙だ。夢枕獏が強い男を描くために、回想シーンやインタビューを挟む手法だ。一人のぼんやりとした禅僧を追って、万華鏡のように変化する言葉に読む手が止まらなかった。宗教系新聞の読書欄で紹介されていたので読んでみたが、今年ベストに入る圧倒的な面白さだった。

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まさきとしか あの日、君は何をした

深夜に家を抜け出した息子が、トラックと衝突して死んだと電話が入った。連続殺人事件が起こる町で、息子は何をしようとしていたのか。幸せな家庭が一転した主婦は慟哭する。15年後、若い女性がマンションで殺害され、不倫相手が行方不明に。感情の薄い妻に違和感を感じる母親は、息子を探し始める……。刑事の三ツ矢と田所がたどり着いた、2つの事件の繋がりとは。

「絶対面白いです!」と面と向かって言われたので読んでみた。息子の死と、失踪のそれぞれの事件から発生する、狂いすぎたオーバーアクションが読みどころ。歪んだ雰囲気が面白くて一気に進めてしまった。ミステリーで始まり終盤になるほど伏線より運命が優先されるのは、今風の話題作という感じ。

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斉藤洋 白狐魔記 源平の風

白駒山にいる仙人に会うため旅に出た狐は、ある若き武士に命を助けられる。のちの再会で彼の名を義経と知る。人に興味を持った狐は、時代の節目に関わっていく……。

児童文学のベテラン、斉藤洋が書く大河ファンタジー。「鎌倉殿の13人」「アニメ平家物語」からの義経ブームで、シリーズ1作目を再読。キツネはウサギを捕まえるが、同じキツネを食べはしない。なのにヒトは、どうしてヒトを殺すのか。この悩みから500年以上に渡る孤独な悩みが始まる……。

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