夕木春央 方舟

大学時代の仲間と山奥の地下施設を訪れた柊一は、道に迷った3人家族と一晩を過ごした。明朝、地震が発生。岩によって扉が塞がれ、地下3階に溜まっていた水が増し始めた。その矢先、仲間の1人が殺された。残された電力、食糧、水没までのタイムリミットは1週間。犯人が犠牲となって岩を動かせば、皆が助かるのだが……。

Twitterで絶賛を見かけて読んでみた。仲間と第三者と閉ざされる状況や、点在する小道具を推理へと繋げていく様子は、学生アリスを彷彿とさせる。犯人を絞りきれない緊張感と、点在した小道具1つひとつによって殺人犯を挙げる気持ちよさ。クローズドサークルの魅力がここにある。その上で迎える驚愕の結末。もう1度読み返して、あまりにも怖くて本を投げ捨ててしまった。しばらく経っても後味が残っている。

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内藤正典 教えて! タリバンのこと 世界の見かたが変わる緊急講座

2021年夏、アフガニスタンの首都カブールがタリバンによって陥落。様々なメディアでタリバンへの批判が挙がる中、1人のイスラム研究者が講演を開催した。共に生きていく方法を考えよう。民主主義、自由、人権を、戦闘機とともに運ぶのはもうやめよう。

ミシマ社が開催したオンライン講座「MSLive!」を書籍化。タリバンが生まれた経緯とイスラム教文化圏の道理を解説する。同時に「キリスト教の民主主義」問題を可視化し、力以外の方法で説くべきだと提言する。岩波ジュニア新書『アフガニスタンの未来をささえる 国際機関職員の仕事』やナショナルジオグラフィックの特集に、本書がプラスされることで大変理解が深まった。交易盛んな文化圏で生まれたイスラム教徒たちのために、私たちが学ぶこと、そして交流の場を提供する人(国)である可能性を残さねばならない。

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森博嗣 オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case

孤島にあるオメガ城への招待に応じた6人の天才研究者と1人の雑誌記者。招待状にはマガタ・シキの名があり、サイカワ・ソウヘイも出席に応じた。執事も主催者を知らない中、和やかな晩餐がスタートする。その深夜、悲鳴で目が覚めた参加者たちは、異常な事態を知るが……。

S&Mシリーズから続くサイカワ・ソウヘイを巡る物語が完結(本当にそうなの?)。某ミステリーと概ね同じと気づいたのはともかく、ただただサイカワ・ソウヘイが話して動いているだけで嬉しい。懐かしいキャラクターが言葉の節々にも登場し、まるでディナーショーのような1冊だった。暦年のファンで集ってワイワイと話しをしたくなる面白さだった。

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