吉村文政 戦争の時代の子どもたち 世田国民学校五年智組の学級日誌より

大東亜戦争が進む中、言葉と絵で学級日誌を書いた子どもたちがいた。多くない勉強の機会、農作業で採れた野菜や、先生がかけてくれた言葉。そして疎開してくる同年代の子どもたちや、学徒動員で旅たつ年上の人たち。

8月の終戦記念日に合わせて読んでみた。耐えて制約ばかりの日々、それでも「文化がないなら、自分たちで文化をつくろう」をテーマに、農作業の楽しさを教える校長先生、表現することを支えた女性教員がいた。過酷な環境になっても、こういう人でいられるかと自分に問うてしまった。活動を続け、今日まで残した人たちを心から尊敬する。

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青木理 誘蛾灯 二つの連続不審死事件

鳥取の場末のスナック。人気のない店に小柄で肥満、特徴のない容姿のホステスがいた。上田美由紀、35歳。彼女の周りでは少なくとも6人の男がいた。どうして男たちは彼女に騙され、支配され、搾取され、死んでしまったのか。関係者を取材するうちに、見えてきた彼女の姿、寂れゆく鳥取の風景とは。

上田美由紀という存在も奇妙だが、彼女を取りまく人たちの静かな怖さよ。バーのママ、嫉妬深い新しいホステス、泥酔した老客、生き残った男、直接は書かれなかった子どもたち……。事件は終わってもこの町にいる関係者がどうしているのか。読者は想像せざるを得ないだろう。

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佐藤究 テスカトリポカ

麻薬密売の利権を巡りカルテル同士の抗争が激化したメキシコ。急襲を受けたバルミロはジャカルタに逃走し、日本人の臓器ブローカーと出会う。世界の富裕層を顧客とする臓器ビジネスを実現させるため、彼らは日本に降りたった。金と臓器を目当てにした潮流に、孤独な少年コシモは飲み込まれるが……。

進化とチンパンジーを書いた「Ank : a mirroring ape」も同じく、中盤まで一気に読ませる力が素晴らしい。知的好奇心と暴力はまさに油と塩。セックスという砂糖がなくてもモリモリ読める。幕の閉じるには尚早だと感じるほどの勢いで終盤を迎えるので、日本での物語、とくにコシモの活躍はもっと書いてほしかった。というかこれ、メキシコ・ジャカルタ・日本を舞台にしたバルミロの物語なの?

「テスカトリポカ」を巡る書店でのやりとりが、初めてバズりました。ありがとう御座いました。コロナ禍以降、京都にある書店の一助になればと大垣書店ジュンク堂をメインに購入しております。 

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