増田俊也 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」と言われた歴史上最強の柔道家・木村雅彦。同時に大衆の目前で力道山に敗れた男でもある。貧しい家庭から「鬼の牛島」に見出され、人の限界を超える3倍努力で猛練習を経た結果、天覧試合で圧倒的な強さを披露する。しかし戦争を境に柔道の本流から離れていく……。

ある経営者に本を読むかと問うたところ、本書を紹介されてから数年……。新聞書評欄で紹介されていたのを機会に読んでみた。木村最強伝説を解体しながら柔道史に肉薄する。牛島辰熊力道山大山倍達など歴史上の著名人からのラブコールに満たされながら、「思想なき木村」が時代に流されていく悲しさよ。しかし木村の魂はブラジリアン柔術によって甦る……。この展開はまさにマンガでしょう。ノンフィクションの緊張感とフィクションのような展開に読む手が止まらなかった。

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板垣恵介 夢枕獏 藤田勇利亜 小説 ゆうえんち 4 バキ外伝

“ゆうえんち”入園から葛城無門に躊躇なく襲いかかる参加者たち。柳龍光を目前に、火照った格闘猛者たちが少年の匂いに惹かれて集う……。

常々官能的な匂いはしていたけど、ロングランの恋愛少女マンガの連載が終わり、エピローグ後に書かれる後日談のカップルデートのような格闘シーン!「まさか私たちがこうして付き合うなんてね……」な惚気が熱い! 幸か不幸か次巻にて完結。いよいよ無門と龍光のガチンコバトルが始まる。あとがきによれば夢枕獏は大病を患いながら書いている様子。回復を願います。

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中山市朗 怪談狩り 黒いバス

新耳袋」の著者・中山市朗が蒐集した実話怪談シリーズ第7弾。死んだはずの友人が家の前に立っている。農地の中に現れた廃病院。明らかな怪異に足が立ちすくむ……。

死んだ友人を乗せる黒い霧のような固まり。興味本位で乗車を試みる「黒いバス」を書いた不連続エピソードが秀逸。その後どうなったんだ……と気持ちが引きずられてしまう読み心地が素晴らしく、少し寝つきが悪くなる。

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