フレデリック・ポール編 ギャラクシー 下

1958〜69年まで米国SF雑誌『ギャラクシー』2代目編集長を務め、SF作家でもあったフレデリック・ポール。創刊30周年を記念して、彼が選ぶ64〜76年の傑作選『ギャラクシー 下』。それぞれの作品に作家紹介と、作家本人による作品および『ギャラクシー』への覚書がついている。11編収録している中、本邦初訳は4編収録された(後述)。創刊30年の80年は、同時に廃刊の年でもあった。

フィリップ・K・ディック『おお! ブローベルとなりて』 64年2月号

火星に住み着いたアメーバ生物・ブローベルと地球の戦争の中、スパイとして肉体改造をしたマンスターには恐るべき後遺症が残ってしまった。半日はヒト、半日はアメーバになってしまうのだが……。いわゆる戦争後遺症をテーマに、ディックが作中に潜めた”その時代にあった恐怖”を知れば、なるほど面白い。ただの痴話けんかでしかない、と読んでしまえばそれまでだが、人種間問題とすれば魅力的になるでしょう。

アイザック・アシモフ『入植者』 65年10月号

5人の漂流者たちがたどり着いたのはアンモニアが充満した星だった。生き延びようと地球に近い環境を作ろうとするが、仲間が1人、また1人と死んでいき……。小尾芙佐訳は『入植者』で、山高昭訳は『創建者』。作品のテーマを際立てているのは後者だけど、前者が与えてくれる地味さも好み。

ロバート・シルヴァーバーグ『すいすい落ちてく』 68年8月号 / 初訳

自己をもつ女性思考型OS(ロボット?)による精神病患者へのカウンセリング……といった物語でしょう、多分。『太陽踊り』は好みだったんだけどな。僕が苦手とする1作であることは確かだけど、作者の生き様のほうがよっぽど面白い。

ラリー・ニーヴン『時は分かれて果てもなく』 68年10月号

平行世界事業団の代表が自殺した。今にもベッドに入ろうとしていた彼はどうして死んだのか。企業内の連続自殺や、頻発している殺人事件との関連は……。平行世界に行き来できたならアレやコレやの夢を打ち砕く、天然の非情さ。無限に広がっている可能性に気づかされた人間がどうなるかを書いた秀作でもあります。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『エイン博士の最後の飛行』 69年3月号

『愛はさだめ、さだめは死 』にも収録されているショックSF。動機が明かされる滑稽さがもう! 何も知らずに読めたということが大変幸せな1編であり、収録されている中でもっとも好きな暗さでもあります。

アルジス・バドリス『“〈ギャラクシー〉・ブック・シェルフ”より』 69年9月号

書評? と思わせてSF? と思わせて”SFってこういうもんなんじゃい!”論。あまりにもダラダラとした酷い文だが、最後の2ページは熱い。脂ぎれをおこした爺さんの戯言かもしれないけど、どうしても好きになってしまう。

シオドア・スタージョン『ゆるやかな彫刻』 70年2月号

盆栽を育てる男と、ガンを患った女性患者が出会い……。何を書きたいのか疑問だったけど、スタージョンが得意とした”孤独と愛”がテーマ、と知ると面白くなる(知ってから再読した)。SFってそういうの多くないですか? (追記:そう書いてしまうとSFのせいにしているみたいだけど、僕が教えて君姿勢で読んでいることが問題だと思っています

ギャラクシー〈下〉 (創元推理文庫)

ギャラクシー〈下〉 (創元推理文庫)