黒木あるじ編 怪談四十九夜 鬼気

隣部屋へのドアの隙間に。降りてくるエレベーターの中に。帰り道にふと見上げた家の窓に。気づいてしまうと、今までの日常には戻れないのかもしれない。現代実話怪談の作家たちによる49話。 拾いものから負の連鎖が続く葛西俊和「筆箱」。トンネルものの恐怖…

陳建一 父の仕事を継ぐ 自分の味をつくる

放浪の果て日本で四川料理を広め「中華の神様」と呼ばれた男、陳建民。その息子、建一はゴルフを楽しみ、持ち前の明るさと前向きな性格で頑張ってきた。しかし偉大な父に近づくほど、その壁の大きさに気づくのであった。中華の鉄人が語る「生きる幸せ」とは。…

泡坂妻夫 ダイヤル7をまわす時

生誕90年記念出版第1弾。船上で起きた殺人事件。死体はなぜトランプで装飾されていたのか?(「芍薬に孔雀」)切符コレクションを馬鹿にされた男は復讐を誓い、完全犯罪を目論む。(金津の切符)暴力団の組長が殺され、犯人は現場で電話を使用していた? 表…

吉田千亜 孤塁 双葉郡消防士たちの3・11

2011年3月11日に発生した東日本大震災。押し寄せる津波で街が混乱しても、福島県双葉郡の消防士たちは懸命の消防と救助を進めた。その中で聞こえてきた爆発音と、のちに知らされた原発事故。食料や水、ガソリンが限られる中で消防士たちは自らの生死を問うた…

フェルディナント・フォン・シーラッハ 珈琲と煙草

その1杯の珈琲が、その1本の煙草が、彼らを救ったのかもしれない。私も救われたのかもしれない。刑事専門弁護士から作家として活躍する著者のエッセイ。 傑作短編集『犯罪』『罪悪』『刑罰』のベースになったシーラッハのエッセンスで満ちた1冊。観察メモの…

岩波ジュニア新書編集部 10代が考えるウクライナ戦争

2022年から始まったウクライナ戦争。この軍事侵略を、高校生たちはどのように受け止めているのか。衝撃や怒り、悲しみと同時に、私たちができることを模索する。高校生たちのヒアリングと、奈倉有里・池上彰からの提言を収録。 とにかくロシア文学者・奈倉有…

斜線堂有紀 楽園とは探偵の不在なり

2人以上、人を殺した者は天使によって地獄に引き込まれる世界。人々は天国の存在をいまだ信じきれていなかった。大富豪・常木王凱に誘われ、探偵・青岸焦は天使が集まる常世島に上陸する。そこでは起こり得ない連続殺人事件が発生した。地獄に堕ちないために…

大澤絢子 「修養」の日本近代 自分磨きの150年をたどる

明治・大正期にエリートになれなかった人々。昭和期のサラリーマン台頭時代。バブル以後に乱立する自己啓発ブーム。彼らはなにを拠り所にして、なにを満たしていたのか。「修養」「教養」に含まれた宗教性、精神性を解体する。 「松下幸之助への崇拝って、新…

タナ・フレンチ 捜索者

アイルランド西部の小さな村に移住したアメリカ人のカル。離婚を済ませ、シカゴ警察を退職し、静かな暮らしと小さな家の修復を楽しみにしていた。しかしながら元警官と知った子どもが、失踪した兄の捜索依頼を持ってきた。誰もが顔見知りで穏やかに思えた村…

武田惇志 伊藤亜衣 ある行旅死亡人の物語

兵庫県尼崎市の古アパートで孤独死した女性がいた。部屋には現金3400万円、星型マークのペンダントと写真が数十枚。名前とは別の珍しい姓が刻まれたハンコ。数行の死亡記事から2人の記者が動き出した。 名前や本籍が判明せず遺体の引取りがない、数多くいる…

我妻俊樹 奇談百物語 蠢記

奇怪、異様、不可思議な話しに聞き耳をたてていると、いつか自分も体験することになる……。実話怪談101話を収録。 急展開に驚かされる「小鳥の置物」と、1歩ずつ恐怖が忍び寄る「スマイル」が最悪なので読んでほしい。会社にいる「神主のような人」。深夜にや…

時海結以 久織ちまき 紫式部日記 天才作家のひみつ

父の影響で博識になった女性、藤式部。夫の急逝により短い結婚生活を終え、物語を書き始めたところ評判となり、宮中で働くことに。噂話が絶えず、人間関係で悩んでも、支えてくれる人、物語を待ってくれる人たちがいた……。 おっとりお仕事小説という新しいジ…

三津田信三 わざと忌み家を建てて棲む

曰くのある部屋、家を集めて一軒にまとめて建て直し、そこで暮らしたらどうなるか。歪んだ発想の家に集められた人々が残した記録。ホラー作家・三津田信三が手記やテープを手にしたとき、怪異が忍びよる。 「どこの家にも怖いものはいる」に続く「幽霊屋敷」…

三田村雅子 NHK「100分de名著」ブックス 紫式部 源氏物語

日本文学の原点にして最高峰と位置づけられる「源氏物語」。その物語構造はどのようになっているのか。1000年以上経った今も読者を魅了する、豊穣な物語世界を案内する。特別章「和歌でたどる源氏物語」収載。 ダイジェストではないものの、源氏物語概論とし…

黒木あるじ FKB怪談実話 屍

友だちから聞いた噂。濡れたままのマンションの通路。運転中に見えた奇妙な景色。あの時の違和感は、何かが始まっていたのかもしれない。気づかないふりをしていただけで。 怪談実話シリーズ第6弾。葬式を舞台にした怪談が好きで、親の代理で出席した会場に…

宮澤伊織 裏世界ピクニック8 共犯者の終り

裏世界で冴月との因縁を終えた今、空魚と鳥子2人は向き合わねばならない感情があった。なぜ裏世界に惹かれるのか。どうして彼女に惹かれるのか。 物語と恋愛の同時決着といえば『フルメタル・パニック!』が印象強く残っている。大筋とキャラクターの感情を…

アンソニー・ホロヴィッツ 殺しへのライン

『メインテーマは殺人』の刊行まで3ヶ月。プロモーションのため、探偵ホーソーンと私ホロヴィッツは文芸フェスに参加するためオルダニー島に訪れた。癖のある参加者たちが集まり、反電力会社運動が見え隠れする島で歓迎のパーティが開催された。次の日、奇妙…

小山哲 藤原辰史 中学生から知りたいウクライナのこと

2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻。すぐに提出された「ウクライナの人びとに連帯する声明」から、私たちできることを問う。まずは歴史を学び、構造的暴力を知る必要がある。私たちが今、生きのびるために。2度と同じ誤ちを起こさないために。 内藤正…

ク・ビョンモ 破果

人を殺して生きて45年。ベテランの殺し屋・爪角は犬と暮らしながら、日々重ねる老いを感じていた。彼女は守るべきものを作らずに生きてきたが、小さな心の揺らぎが致命的なミスへと繋がる。プロの心情が揺らいだとき、死闘が始まる。 研ぎ澄まされた技術と老…

久田樹生 「超」怖い話 死人

怪異との遭遇は事故にあうようなものかもしれない。ある日突然、防ぎようのない恐怖に出会ったとき、人はどう判じるのか。取材による実話怪談28編を収録。 元ヤクザが飲食店を経営した末の「精算」。いじめられっ子の幽霊が現れる「価値なし」。スナックのマ…

金田直久 白装束集団を率いた女 千乃裕子の生涯

2003年4月、突如メディアに追われた白装束の集団。白布と謎のデザインにデコレーションされたキャラバンの正体「千乃正法会」あるいは「パナウェーブ研究所」とはなんだったのか。教祖である千乃裕子の生涯を追いながら、事件の全貌を解説する。 本書はとて…

黒木あるじ 黒木魔奇録 狐憑き

夜中にかかってきた番号不明の電話。クリックしたアクセス先。いつもと違う帰り道。あの時の出来事は、誰かに語れば断ち切れるのか。 人がいないから、家にいる時間が長いから気づく怪異がある。震災に続き、コロナ禍での実話怪談も収集する。病院怪談はいく…

中山市朗 怪談狩り 山の足音

「新耳袋」の著者・中山市朗が蒐集した実話怪談シリーズ第8弾。吉野の山奥で古民家を改修して始まる異常な怪異。明らかな敵意に足が立ちすくむ……。 角川ホラー文庫で唯一読んでいる実話怪談集。「ずれた世界」が典型的なモダンホラーながら圧倒的に怖い。泣…

荒木飛呂彦 北國ばらっど 岸辺露伴は倒れない 短編小説集

杜王町に住む人気漫画家・岸辺露伴が出会う数々の奇怪。至高の音楽を求めた男の末路「黄金のメロディ」。実写ドラマ化の撮影中に始まる怪異「原作者 岸辺露伴」。毎年6月に住人が消える家に呼ばれて……「5LDK ○○つき」の3編を収録。 ジョジョ4部のスピンオフ…

小鍛冶孝志 ルポ脱法マルチ

「近くでいい居酒屋知らない?」その一声についていったらマルチ商法に片足を入れていた。新聞記者である著者が、コロナ禍で彼らに出会い惹かれていく。なぜ彼らはやりがいを求めるのか。通称「事業家集団」「環境」と呼ばれる組織が引きこむ手法とは。 NHK…

22年度読んでよかった本

2006年から続けている今年読んでよかった本。本厄のためしんどいイベントもたくさんありましたが、2023年は風向きを変えたいところ。この1年での読書記録は100冊弱。その中で印象に残ったものをボリュームある作品から紹介。 水上勉「飢餓海峡」は、義実家で…

クリス・ウィタカー われら闇より天を見る

カルフォルニア州、海沿いの小さな町ケープ・ヘイヴン。30年前に起こった少女殺人事件の影響がまだまだ残っている。自称無法者の少女ダッチェスは、事件から立ち直れない母親と、まだ幼い弟のために信念をもって生きていた。そして犯人が刑期を終えて帰って…

白井智之 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件

楽園ジョーデンタウンでは病気も怪我も存在しない。カルト教団の本拠地に調査に入った助手が帰ってこないため、探偵・大塒は記者とともに飛びこんだ。助手との再会を合図のように、楽園で不審死が発生する。密室・毒殺・切断死体。正しいのは教祖の奇蹟か、…

松島駿二郎 探険と冒険の物語 世界をどう変えたのか

未知の大地を見てみたい。誰も踏み入ったことのない土地を歩きたい。誰も知らない生物に出会いたい。そんな好奇心、欲望が人を駆りたてる。進化論へと思考を進めたダーウィンやウォレス。新大陸へと進んだコロンブスやマゼラン。南極点を目指したアムンゼン…

森博嗣 新装版 ダウン・ツ・ヘヴン Down to Heaven

クサナギがエース・パイロットとしてトップの成績を収めた結果、彼女は企業にとっての生きる広告になった。女性キルドレという話題性に利用され、鬱屈とした彼女に、都市部での実戦指令が下る。 森博嗣が書く「熱中する故に格好いい女性」が好きだったんだけ…